INTERVIEW with

[写真家]

LEONの周辺には有名無名にかかわらず、男から見ても格好のいい大人の男たちが大勢いる。
そしてそんな男たちのフリートークは必ずどこかに発見があるものだ。
そんな男たちとのフリートークを収める「INTERVIEW with」。
今回は幼少の頃から現在も鎌倉で暮らし、長年にわたってビーチカルチャーをカメラに収めてきた
日本のサーフフォトグラファーの第一人者の横山泰介さんを紹介する。

街・海・山、フィールドは
違っても価値観を
認め合っていきたいよね(横山)

前田陽一郎
(以下:前田)

前回、泰介さんと会ったのが今年の2月、春節の日でした。でも実はちゃんと話したのって20年ぶりだったんですよ(笑。

横山泰介
(以下:横山)

えぇ~! そうだっけ?何となく、いつも会って話してるような気がしていたけど。

前田

いやいや、20年ぶりです(笑)。赤ちゃんが成人するまでの時間、僕たちまともに話ししてないんですよ。共通の知り合いが多いのと、ちょこちょこお会いしているので、そんな感じはしないですけどね。随分と久しぶりだったはずなのに、いきなり写真とか雑誌とかの話で盛り上がって。

横山

そうだったね、オレが雑誌をはじめるって話しをしたら、前田くんはデジタルをやるんだなんて言って。

前田

初めてお会いした時はまだ僕、28歳だったんですよ。いまとはまったく違うストリート誌の編集をしていて。泰介さんが納めた「稲村クラシック」の写真をお借りしに行ったのが最初でした。

横山

何年か前にLEONでオレたちが初めて会ったときのエピソードを書いてくれたことがあったでしょ? あんな昔のことをよく憶えてるな〜って感心したよ。

前田

泰介さんに許可も得ず、勝手に書いちゃったんですけどね(2013年LEON1月号掲載)。

横山

オレ、何か生意気なこと言ったんだよね(笑)。

ケガするって大事だよね、
生きてるってことを実感するから。(横山)

前田

当時の僕はモトクロスバイクにハマってて、その前の週に転んで腕をケガしちゃってたんですよね。そのケガを見るなり、泰介さんに「どうしたの?」って聞かれて。海に生きる人にとって、バイクは自然破壊をイメージさせる気がしちゃうんじゃないかって負い目があったんで、実は説明したくなかったんですけどね。ひと通り正直に話したら、企画内容も聞かれることなく「どの写真でも好きなように使っていいよ」って言ってくれて。

横山

そんな感じだったかな。ケガするって大事だよね、生きているってことを実感するから。そんなことを言った気がする。

前田

僕はサーファーでもフォトグラファーでもなく、年齢はもちろん、遊びや仕事のフィールドも泰之さんとシンクロするところのないただの若造ですよ、当時は。それでも「サーフィンもモトクロスもケガと隣り合わせ。そういう遊びを好むヤツは、生きる喜びを知ってるし、楽しむことの大切さを知ってるから信頼できるんだよ」って、初対面だった僕に話してくれたんです。

横山

街や海や山だとか、それぞれ身を置く場所は違っても、人間なんてそんな簡単にカテゴライズできるものじゃないしね、もっと大らかに、いろいろな価値観を認め合っていければいいと思ってるよ、今でも。

前田

まったくその通りだと思います。

横山

時間はあっという間に流れるけど、ヒトの言葉はしっかりと憶えておくといいよね。
〈ハリウッド ランチ マーケット〉の垂水ゲン(※1)さんとか、亡くなったアートディレクターの渡邊かをる(※2)さんは、オレにとって第2・第3の親父のような存在で、あの人たちが発する一言ってすごく重みがあってね。かをるさんなんてダンディを絵に描いたような粋人だったから、本業のデザインはもちろん、写真や絵画、陶磁器、骨董も詳しければ、茶道の世界まで造詣が深くて、その一言一言に「お勉強させていただきます」って感じだったよ。

  1. ※1:1972年、東京・千駄ヶ谷に最初の店舗をオープンし、現在は代官山の名所となっているセレクトショップの草分け〈ハリウッド ランチ マーケット〉など、世界観の富むさまざまなショップを運営する聖林公司の創始者。
  2. ※2:VAN ヂャケットの社内アートディレクターとして活躍し、独立後は『キリンラガービール』のラベルデザインをはじめ、多くの広告などを手掛けた斯界の大御所。また銀行ビルを改装した鎌倉・由比ガ浜の伝説的なバー『ザ・バンク』のオーナーも務めた。2015年、72歳で逝去。

湘南の縦社会って、見ていて心地よく感じるんです。(前田)

前田

だけど、本人は決して偉そうにはしないんですよね?

横山

いたって本人は普通で、世間話でもしてるような感じだった。だけどオレとしては、先生と生徒の1対1のセミナーみたいだったのね。そうやって“本物”の人間と付き合うのって、すごく大切だよ。実の親父からも「本物を見ろ。年上の人間と付き合え」って、いつも言われたもんだよ。でもオレ、若いヤツらも好きだし、今では自分がオジサンになって周りは年下ばかりだから、オレ自身がみんなの親父みたいな存在になっちゃってさ。来年70歳だから、親父っていうより、おじいちゃんかな(笑)

前田

とはいえ泰介さんは、若い世代の上に君臨しているわけじゃないですよね。

横山

ひとつのところに属すのがあまり好きじゃないから、いつも一歩引いて、周囲から状況を見ているスタンスかな。

前田

なのに、湘南を歩いていると若い人たちが「泰介さん、コンチハッス!」みたいな感じで寄って来ますよね。すごく慕われているのがわかります。

横山

これだけ長いこと湘南で波乗りやってると、それなりにみんな知ってくれているし、あとは年の功かな。なんだかんだ湘南も縦社会で、年寄りは大切にって風土もあるからさ(笑)。

前田

でも湘南の縦社会って、なんていうか、見ていて心地よく感じるんですよ。

横山

体育会系の上下関係とは、また違うからね。そこが重要なんだよ。ほら、サーフィンって自由なスポーツでしょ。そこに体育会系のノリを持ち込むとダメなんだよね。ただ先輩だからって誰でも敬うのではなく、若かろうが年配だろうが尊敬すべき人間は尊敬する。湘南はそういうところだね。

文化が浸透すれば、
海への意識も変わると思うんだよね(横山)

前田

泰介さんは紛れもなくサーファーだけど、個人的な印象ではサーファーというより、もっと広い捉え方で“海のヒト”っていうか。あるときは“街のヒト”で、あるときはもっと広い意味で“陸のヒト”でもあるような。海ってものを、どこか客観的に見ているような気がしてるんですが。

横山

さっきも言ったように海辺のカルチャーをいつも一歩引いて見ようとはしてるよね。海の周りにはたくさんの人が生活していて、いろんな価値観があるから。

例えばここのレストラン(レストラン ラ・マーレ)は、海辺のテラス席で食事やお酒を楽しめて、ロケーションも雰囲気も抜群だけど、ヨーロッパに行けばこういうお店って、当たり前にあるでしょ?なぜこれが海に囲まれている日本では当たり前にならないのかって、常々思ってきたよ。海はそこにあるだけで、十分じゃない。そういう視点とか文化が浸透すれば、海への意識も変わると思うんだよね。

ちょっと堅い話になるけど、昔はさ、海で遊ぶことが世間的に理解されてなかったんだよね。オレたちが若い頃はまさに高度成長期で、仕事! 仕事!って風潮が強くてさ。当時はオレも長髪で、そんな身なりで海にいると「こんなところで何してんだ?」って言われたもんだよ。あの時代はサーフィンも限られた一部の海でしかできなくてさ、海は遊ぶ場所じゃないって認識が国民全体に植え込まれていたんだよね。あと海を働く場所にしている人たちとの軋轢というか関係性は、今もなかなか変わらない側面もある。それじゃ、海を身近に感じられなくて当然だよ。

海と日本人の距離感が少しずつ変わり始めてる(前田)

前田

僕は三重県の伊勢の生まれで、サーフポイントとしても有名な国府の浜も近かったんです。先輩に連れられて当たり前にサーフィンをしたり。母親の実家が海のすぐそばで、子供の頃は遠くに波の音を聞いて眠るなんて経験もしました。その頃の方が海は近かったですね、僕にとっては。

だけど30年前、大学進学で上京したとき、なぜか海をすごく遠く感じたんですよ。地理的な距離ではなく、暮らしのなかでの距離みたいなものが。東京の感覚では「今から行こう!」って気軽に向かうところではなく、わざわざ事前に予定を組んで出掛ける場所という認識。そのときに思ったのが、海辺の街で生活しているわけではない人々、つまり多くの日本人にとって、海は身近な存在ではないのかもって。

ただね、ここ最近になって、海と日本人との距離感が少しずつ変わり始めているんじゃないかと、そんなふうに思いはじめてもいるんです。

横山

確かに、それはオレも感じはじめてるよ。

前田

LEON.jpの「最高の海、最高の夏」特集でも紹介した、宮崎の「青島ビーチパーク」や、福井県の高浜町はその象徴だと思っていて。高浜って原発が有名だけど、鎌倉の由比ヶ浜とともに日本で2ヶ所しかないブルーフラッグ認証の若狭和田海岸があり、原発の町ではなく、海の町・高浜を取り戻すために地元の若手が中心になって奮闘している。そういう動きを見ていると、一歩一歩だけどよい方向に進んでいる気がして。

蛍光灯の下で会議をしたって、大した意見なんて出てこないよ。(横山)

横山

オレは物心ついた頃から鎌倉で、こういう景色しか知らずに育ったから、この環境が当たり前なんだよね。東京とか都会がビジネスに適していることはよくわかるけど、いざ自分が行くと違和感を覚えるし、とくに最近は一段とスピード感が早くて着いていくのが大変。

仕事に一生懸命も大事だけど、ことさら今の時代はハードワークだから、息抜きしないと人間はダメになるよ、きっと。こういう海沿いのテラスでさ、太陽の光を浴びながらワインを一杯やって、ただボ~ッとするのも大切じゃない。

昔から言ってんだけどさ、蛍光灯の下で会議をしたって、大した意見なんて出てこないよ。湘南なら東京から1時間でアクセスできるんだから、こうした気持ちいい場所で伸び伸びと打ち合わせしたほうが、よっぽど建設的で素敵な意見が出てくると思うよ。

「海水に浸かったほうがいいよ」って言いたくなっちゃうし、もっと裸足になったほうがいいね。

前田

そうそう、現代は裸足からどんどん遠のいていますよね。すごく共感します。

横山

もっとEARTHしなきゃ。そういう考え方をする人も、少しずつではあるけど増えてはいるけどね。東京で成功して葉山や逗子のほうに別荘を構える人、若い世代だと仕事場は都心だけど、住まいは湘南みたいな人も目立ち始めた。やっぱり豊かな自然の近くに身を置いていると癒されるし、みんな気付き始めているんじゃないかな。

文化が浸透すれば、
海への意識も変わると思うんだよね(横山)

前田

泰介さんがスーパーバイザーとなって、新雑誌『サーフマガジン』を4月に創刊されましたよね、どうですか?

横山

本当に大変だった(笑)。でも評判は上々だよ。表紙ひとつにしても、よくあるサーフィン雑誌ってバーンと派手なアクションがある写真がメインでしょ? でも俺たちが目指したのは、カフェやヘアサロン、ファッションのショップに置いてもマッチするような、そんな雑誌。

前田

わかりますよ、海とサーフィンを愛している人の表現だと思いましたから。そういう部分は意識されました?

横山

オレたちは海から離れられない人種だし、海からたくさんのものをもらってきたよね。だから今度は、海に恩返しできるものを作りたいと思ってね。今は何でも急速に変化していく時代だけど、あまり意識せず、根底にあるものは貫いて、流されないよう妥協しないでやっていこうと考えてる。あとは写真の力を削がないように編集することを心掛けているかな。

前田

30年近く雑誌の仕事をしてきた僕が、こうしてデジタルをやってみると、その面白さにワクワクするんです。でもね、デジタル表現の可能性について考えれば考えるほど一方で紙媒体のいいところがどんどん見えてきて。「うわ、やっぱり雑誌ってすごいわ」って(笑)。そんな時に久しぶりに泰介さんと会って、そしたら新しく雑誌を立ち上げるって。それが『サーフマガジン』でしたよね。

横山

あのとき『サーフマガジン』はデジタルメディアではなく、紙媒体にするのが絶対にベストって言ってくれたよね。でも前田くん以外の大半の人には、紙媒体が相次いで休刊したり、デジタル化されている時代に逆行しているって忠告されたよ。だけどさ、たくさん売れなくても、ちゃんと好きな人たちに届いて、読み終わって本棚に納めても、またふとしたときに読み直したくなるような存在にしたくてね。

波乗りの魅力を伝え、共有する場所としてのメディアをなくしちゃいけない(横山)

前田

デジタルメディアが急速に成長しているのは紛れもない事実ですし、まだまだ無限の可能性を秘めているとも思ってます。一方で僕たち雑誌のエディターは、ずっと紙の上で表現してきたから、それが当たり前になりすぎて、紙の本当の力を見失っている部分もあるのかなぁって。その力を象徴するのが写真。例えば、雑誌を開いたときにドーンっと視界に飛び込んでくる見開き写真のパワー。このスケール感をスマートフォンの小さな画面のなかで表現するのは無理ですから。

横山

そこだよね。スマートフォンもパソコンも、新しい情報が次々と更新されて、留まることはないでしょ。そうしてスイスイと流しながら見ても、写真って記憶には残らないんだよね。かろうじて頭には残る強い写真だとしても、実態としてのカタチは残らず、過去のものとして消費されちゃう。

前田

デジタルにはデジタルの、雑誌には雑誌の表現があるべきだと思いますね。
まあ、こうやって、インタビューとか特集主義とか掲げているのはかなり雑誌っぽい発想ですけど(笑)。とにかく『サーフマガジン』は“雑誌であること”にこだわっているところがいい。最新号の『サーフマガジン』では「STOKED(=ワクワクする!といった意味合いのサーフスラング)」というテーマに向かって一冊を編集されていますが、まさしく雑誌表現の原点ですよね。

横山

そう言ってもらえるととっても嬉しいね。そうしたオレたちの想いが通じる人たちのために作ってるからさ。サーフィンが東京オリンピックの正式種目に追加されて、2020年に向かって盛り上がっていくから『サーフマガジン』を創刊したとか言われるけど、そんなことは考えたこともない。古参の『サーフィンライフ』が出版元の倒産で休刊状態になって、サーフメディアが何もなくなってしまった。そのとき、波乗りの魅力を伝え、共有する場所としてのメディアをなくしちゃいけないと思ったんだよね。幸いなことに、別の出版社のもとで『サーフィンライフ』は復刊したけど、僕らの『サーフマガジン』とは競合しないだろうし、細くても長く続けていきたいし、ずっと絶やしちゃいけないと思ってる。

前田

今も頻繁にサーフィンはやっているんですか?

横山

もう波が来たら、すぐに飛んで行ってる。そこは相変わらずだね。

インタビュー/前田 陽一郎(LEON.jp
写真/福本 和洋(MAETTICO)
文/いくら 直幸

横山泰介[写真家]
Taisuke Yokoyama

1948年生まれ。’70年代、学生時代に撮影した稲村ヶ崎の写真がきっかけとなり写真家の道へ。以降、自身が愛するサーフィンをテーマに作品を撮り続ける。またサーファーのみならず、これまでミュージシャンやアーティスト、ハリウッドスターまで数多くの著名人を撮影。30年以上にわたって撮り溜めたサーファーのポートレイトを一冊にまとめ、2003年に刊行された写真集『surfers』の第2弾『surfers 2nd』が7月28日(金)発売予定。

横山泰介写真集 サーファーズⅡ

surfers Ⅱ~on their pure stoke
7月28日発売 176ページ 3,800円(税別)

写真集発売を記念して展示会並びパーティを開きます

会期:2017年7月20日(木)〜2017年8月31日(火)
場所:SLOPE GALALLERY
2-9-1-B1 Sendagaya, Shibuya-ku, Tokyo
http://www.buenobooks.com/slopegallery/

SHOP information

レストラン ラ・マーレ

住所/神奈川県三浦郡葉山町堀内24-2
営業時間/ランチ11:30〜14:30(L.O.)、ディナー17:30〜21:00(L.O.)
定休日/月曜日

http://lamaree.chaya.co.jp

予約・お問い合わせ/☎ 046-875-6683

今回取材した「レストラン ラ・マーレ」の掲載記事を見る

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