INTERVIEW with

[プロボクサー]

LEONの周辺には有名無名にかかわらず、男から見ても格好のいい大人の男たちが大勢いる。
そしてそんな男たちのフリートークは必ずどこかに発見があるものだ。
そんな男たちとのフリートークを収める「INTERVIEW with」。
今回は、WBA世界ミドル級チャンピオンという偉業を成し遂げたプロボクサー村田諒太さん。
飾らない人柄でも人気の村田さんに、自身にとって大事な3つのこと、をテーマにお話を伺った。

格好つけて何者かを演じても、
そのうちバレますから(村田)

前田陽一郎
(以下:前田)

まずは世界チャンピオンおめでとうございます。

村田諒太
(以下:村田)

ありがとうございます。

前田

このインタビューでは、我々LEONが考える“格好いい男”を突き動かしてきた原動力や目標、さらにはその人の人生哲学のようなものを伝えられたらいいなと思っています。とはいえ、限られた時間のなかでひとりの人の人生を全部掘り下げられるものではありません。そこで「私を作った3つのこと」と題し、その人が大切にしている3つのことについてお話しを伺いたいと考えています。ですので、今回は「村田諒太を作った3つのこと」を聞かせてください。

村田

村田諒太を作った3つのことですか。ひとつは家族、ひとつはボクシング。もうひとつは…けっこう難しいですね。

コソコソ期待していたら
子どもはそれを感じ取ります(村田)

前田

では、まずご家族について聞かせてください。村田さんは2015年の1月から毎日新聞で『改善主義』という連載をおもちですが、あれを読むと連載が始まった当初はボクシングの話や精神を鍛える方法など、ご自身のことについて書かれたものが多かった。ところが、あるときからご家族や自分を支えてくれる周りの人の話しが増えてきたのがわかります。いつ頃からご家族を意識されるようになったんですか?

村田

自分ではあまり意識していませんね。むしろ、意識しているうちは自己中心的な状態だと思います。当たり前の存在として、意識しなくなった時に変わるんでしょうね。つまり、自分がちゃんと家族の輪のなかにいれば、意識する必要はなくなるわけですから。

前田

ということは、何も意識していないけれど村田さんを作る重要な存在になっているということですね。

村田

そうですね…いや、でも、よくよく考えてみると、家族に何も期待していないというと嘘になります。例えば子どもに対しては絶対に期待があるんですよ。息子に「お前はお前らしく生きればそれでいいんだ。人と比べることはないんだ」と言ってみても、運動会でかけっこしたらやっぱり一番になってほしいですし。

前田

それは親としては当たり前の感情ですよね。

村田

だから最近は、そういう自分の気持ちに正直になってもいいかな、と思うところはあります。子どもに対しても期待していることを隠さないようになってきました。だって、いくら口で「自分らしく」なんて言っても、コソコソ期待していたら子どもはそれを感じ取りますからね。

前田

自分に対してもお子さんに対しても嘘はつかないということですね。

村田

誰に対しても、です。人間、心が籠っていないことをいくら言ってもしょうがないと、この頃つくづく思うんです。試合後のインタビューなんかでも、本当にそう思ったことを言った方が伝わります。ロンドンオリンピックの後、こういう質問が来たらこう答えようと決めて記者会見に望んだこともあったんですが、まあ響かなかったですね(笑)

前田

たしかにいまの村田さんは、いつも本音で語っているという印象があります。

村田

あと、どうやって僕が作られたかということに関連して思うのが、人生に因果とか方程式とかないんじゃないかということです。人間ってみんな方程式を求めるじゃないですか。でも僕のボクシングにしても、元々は金メダルをとって終わりにするつもりでいたのが、その後プロになって、いま世界チャンピオンになった。どうしてそうなったかと考えると自分でもよくわからないんです。

結局は、人事を尽くして天命を待つ、ということじゃないかな、と。ニヒリズム的な運命論を信じているわけじゃありませんが、人生にはある程度、諦めの観点も必要だと感じています。

前田

以前、別のインタビューでもそうおっしゃってましたね。

村田

もちろん人事を尽くす段階で諦めちゃダメですよ。自分にできることはやれるだけやる。でも、その後は自分ではコントロールできないから考えない。そういう意味で僕はニヒリストの運命論とは違う、むしろ対極の運命論者だと思います。

村田さんって
本当に格好つけないですね(前田)

前田

話しがボクシングに入ってきましたので、そのままお聞きしますが、ズバリ村田さんにとってボクシングってなんですか?

村田

たまたま出会って、たまたま続けていたら、たまたまこうなった。でも、いまの僕からボクシングを取ったら僕はない。じゃ、何かって言われると…、飾り物みたいなものですかね。

前田

え、そこまで言っちゃいますか?

村田

だって、金メダルをとっても世界チャンピオンになっても僕は変わりませんから。

前田

でも周りが変わった…。

村田

そう。冠がついただけ。幻みたいなものですよ。もちろん世界チャンピオンになったという事実は、僕の考え方やライフスタイルに少なからぬ影響を与えました。でも本質ではない。いままで2回人生が変わる瞬間を経験して、その度に僕の周りに人が集まってきましたが、僕に集まっているんじゃなくて冠に集まっている、という感覚はやっぱりどこかにありますね。

前田

毎日新聞の連載のなかでも、自分のアイデンティティが金メダリストだったときもあるし、これからはチャンピオンがアイデンティティの一部になってしまうかもしれない。それをプレッシャーに感じてしまうというふうに語られていましたね。

村田

やっぱり、チャンピオンって言われると気持ちいいんですよ。そこで自分のことを考えてつくづく思うのが「俺は人を上か下かでしか見てないな」ということです。というのも、いままで僕は、例えば軽量級の日本人チャンピオンの人を見ても素直に祝福できないところがありました。心のどこかで「階級が違うから」と自分に言い訳をしていたんです。

だから、世界チャンピオンになって何が良かったかって、世界チャンピオンコンプレックスがなくなったことです。人の幸せを喜ぶ余裕もできました。でも、それって“ちっさいな”と思う。なんだかんだ言っても僕はその冠が欲しかったんですよ。

じゃ、それにどう対処していくかというと、これはもう正当な努力によって対処するしかない。努力に関してはこれまでもやってきたつもりなので、そこには誇りをもっていますが、どこかに人との関係を上か下かで見ている自分がいるのも確かです。そこはやっぱり、ちっさいな〜と思いますね。

前田

村田さんって本当に格好つけないですね(笑)

村田

格好つけても、そのうちバレますから(笑)

前田

でも、僕たちが生きているいまの社会そのものが上か下かの社会ですよね。どんな仕事をしている人にも競争はある。そこで人を引きずり降ろすんじゃなく、正当な努力によって自分を高めていくという村田さんの姿勢は、多くの人の参考になると思いますよ。

村田

いやいや、僕はそんなんじゃないですよ。ひがみ・やっかみは誰にでも必ずあります。だから、ひがみ・やっかみをもったままやってもいいと思うんです。僕もずっとそうでしたもん。悔しくて悔しくて、ぐちぐち言いながら、それでも続けてただけ。大切なのはとにかく続けていくことですよ。

いま、人生で
一番怖い時期かもしれない(村田)

村田

あと不思議なもので、他者貢献の気持ちでやったときは物事が上手くいきますね。

前田

ボクシングにおいて他者貢献ってどういうことですか?

村田

僕が北京オリンピックの予選で負けて一度引退し、大学の職員としてコーチをやっていた時のことです。ある学生が問題を起こして部が大会への出場停止や降格処分になりました。頑張っている学生のことを考えると悔しくてね。そこで、なんとか学校が頑張っている姿を見せたいと思って現役に復帰したんです。それがロンドンオリンピックへと繋がりました。

前田

そうだったんですか。じゃ、そのときの奮起がなかったら金メダルもなかったわけですね。

村田

そうなんですよ。そして、もうひとつはプロになってからの話です。2016年の12月、ある大会に出る予定だった選手が怪我で出場できなくなって、対戦カードに穴が開きそうになりました。その大会は大々的にテレビ中継も組まれているようなものだったので「代わりに僕が出てもいいですよ」と名乗り出たんです。言ったときは半分冗談、半分本気みたいな感じでしたが、実際に出ることになって、そこからいまに至る流れができました。だから根拠はないんですが、他人のためになるようにと思ってやると追い風が吹くこともあるんじゃないかと感じています。

前田

それは、流れみたいなものなんですかね?

村田

そうかもしれませんね。逆に“俺が俺が”と思ってやっているうちは、だいたい上手くいかないですね。だから怖いのが、いま世界タイトルを取って、また“俺が俺が”になりそうなことです。わかります?

前田

わかりますよ。こういうインタビューとかも多いでしょうし、時の人ですからね。

村田

そうなると、やっぱり自分中心の考えに陥りそうで、それが怖い。もしかしたら人生で一番怖い時期かもしれません。これを上手くコントロールできるようになったら、精神面でも成長したのかなって感じられると思います。

前田

でも、端から見ていると、そういう自分も全部受け入れた上で、コントロールしているように見えますよ。

村田

自覚はないですが、否定してもしょうがないですからね。否定すれば逆に感情と喧嘩して、きっと余計に“俺が俺が”という気持ちが大きくなっちゃう。だから「あ、そうか、俺はいま自分が中心だと思いたいんだな」と受け入れてあげれば、それだけでも少しは歯止めが効くかもしれませんね。

金メダリストのプレッシャーから
ようやく解放されました(村田)

前田

ストイックですね。いまはチャンピオンと呼ばれることに対して、ちょっとフワフワしていてもいいんじゃないですか。だって、ここから先がもっと大変なところですから。

村田

それは間違いないですね。でも、もうひとつ本音を言うと、世界チャンピオンという肩書きを得たことで安心している節があるんですよ。つまり、金メダリストからプロに転向して恥はかかずに済んだ、と。そこに対するプレッシャーが消えた分、ある意味では挑戦しやすい立場になったとも言えます。

前田

そうなんですね?!

村田

ここから先、もし負けても金メダリストがチャンピオンになったという事実は傷つきませんから。僕みたいに人の目を気にする人間からしたら挑戦しやすいです。もちろんこれからはいままで以上に強い相手と戦わなきゃいけないプレッシャーはあります。でも、金メダリストの名前を汚しちゃいけないというプレッシャーからは解放されました。その分、前に進んでいきやすい。変な話、負けることも許されるわけですから。守らなきゃいけないプレッシャーから攻めなきゃいけないプレッシャーに変わった。僕は攻めるほうが断然好きですね。

前田

やっぱり金メダルって、僕らが考える以上に重かったんですね。さて、そうなると3つめはなんでしょう?

村田

やっぱり言葉との出会いとか、そういうことになるんでしょうね。

前田

確かに言葉って大事ですよね。言葉が自分を180度変えることはなくても、軌道修正をする時の役には立ちます。

村田

あと、独り言でもいいから何かを呟いていると「俺、いまこんなこと考えてるんだ」と改めて気づくんです。会議なんか無駄だという意見もありますが、ちゃんと本音で話し合っていると、そのうち良い答えが導き出せたりしますよね。本音で、というところが大事ですけど。

前田

まさにそうですね。僕らも普段の事務的なやり取りはメールで済ませてもアイデアを出し合うようなときは、ちゃんと膝を突き合わせてやります。そうするとひとつの言葉が別の言葉を引き出してくれたりしてアイデアが膨らんでいくんですよね。人の話す言葉って文字と違ってニュアンスを含んでいますから。逆に整然と並んだ文字にニュアンスをつけて言葉化できるのも人間だけの特別な能力だと思います。

村田

たしかに同じことでも言う人によって変わりますよね。そこが人間力なんでしょう。

いまやれることをひとつひとつやっていく。
それがひたむきさだと思います(村田)

前田

いま、村田さんを支えてくれているナイキもキャンペーンのなかで「LABOR OF LOVE」という言葉を発信しています。日本語で言うと「ひたむきに自分の道を極めようとしている人」ということなんですが、村田さんは“ひたむきさ”に対して何か身上をおもちですか?

村田

むしろ自然と生まれるものですね。さっきの家族の話しと同じで、ひたむきになろう!なんて思っている時点で、ひたむきじゃない。一生懸命やらなきゃいけないことが目の前にあったら勝手になるものだと思います。

前田

たしかに。ひたむきだというのは人が判断することであって、自分で考えることじゃないんでしょうね。

村田

僕にしたってボクシングでやっていくしかないんです。チャンピオンになったからハッピーエンドでやめますというわけにはいかない。そこに理想的なひたむきさというものはなくて、ただ目の前にあるやらなきゃいけないことを一生懸命やるしかない。

それこそ僕の好きなV.E.フランクルの言葉じゃないですが「人生の問いかけに対してどう答えていくか」だと思います。人生から与えられたものに対して、いまやれることをひとつひとつやっていく。それがひたむきさじゃないでしょうか。

前田

そうかもしれませんね。今日は長時間本当にありがとうございました。いろいろなお話しを伺って、改めて村田さんは本音の人だなと確信しました。

村田

僕はもう、ずっとこれでいきますよ。みんな嘘には敏感ですからね(笑)こちらこそ今日はありがとうございました。

撮影/前田晃(MAETTICO)
文/竹内虎之介(シティライツ)
インタビュー/前田 陽一郎(LEON.jp
取材協力/ウイダートレーニングラボ
協力/ナイキジャパン

村田諒太[プロボクサー]
Ryota Murata

奈良県生まれ。帝拳ボクシングジム所属。現WBA世界ミドル級チャンピオン。中学時代にボクシングに出会う。南京都高校(現:京都廣学館高校)で、高校5冠を達成。2004年に東洋大学に進学し全日本選手権で優勝。北京オリンピック出場を逃し一度は現役を引退するも2009年に現役復帰。2011年世界アマチュアボクシング選手権 準優勝。2012年ロンドンオリンピック ボクシングミドル級 金メダル。2013年4月プロテストを受け、特例でA級ライセンスを取得。同年8月25日にプロ転向第1戦で東洋太平洋ミドル級チャンピオンを破り、鮮烈なデビューを飾る。その後13連勝。2017年5月20日、ハッサン・ヌダム・ヌジカムとWBA世界ミドル級王座決定戦を行い判定負け。同年10月22日、王者ヌジカムと再戦し、7回終了TKO勝ちを収め前戦の雪辱を果たす。

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